借金していた友人男性が結婚したが、なぜ結婚できたのか?【体験談・40歳独身男性】

「結婚は墓場だ!」と独身貴族を名乗る方は口をそろえて言います

 

40歳を目前に据えた独身の私もその口で、自分や友人との時間を犠牲にしてまで結婚するという願望がありません。
周囲の人間も同じ考えを持っていたため、半ば盲目的に結婚=悪のような先入観に囚われていました。しかし一年また一年と歳を重ねるごとに既婚者がチラホラと出始め、いつしか私のような独身男は友人グループの中でも少数派になっていました。
そんな時Nという男が恋人と婚約を果たすという一大事が起きました。グループ内でも「このレースで最後まで残るのはNだろうな」という暗黙の認識があったため、その年一番のビッグニュースになったのです。

 

Nはなぜ結婚したのか?

Nほど結婚に無縁の男はいません。彼の職業柄、収入が安定しておらず常に誰かから借金をしている状態でした。私も高給取りというわけではありませんが、Nほど困窮していないため彼には幾ばくかの借りを作ったことがあります。
Nから婚約の話を聞かされる一週間ほど前、これまで貸していた決して少なくない額の借金を一括で返済したいと申し出がありました。その時の私は、どうせパチンコか何かで当たったのだろうと深くは考えませんでした。しかし事実は異なっており実はNの彼女、つまり今の奥さんの実家から金銭的な援助を受けていたとのことでした。

 

なんでも綺麗さっぱりな状態で籍を入れるため、借金のことを洗いざらい告白したら全て負担してくれたそうです。聞けば奥さんの実家も決して裕福ではなく、娘のために貯めていた結婚資金から捻出したのだと後から聞きました。

 

これにはNも驚いたことと思いますが、私にはその気持ちが少しわかる気がします。Nは方々の知人から金を借りていますが、言い換えれば色々な人から金銭の工面を受けていることになります。

 

彼自身が気付いているかはどうかわかりませんが、Nは人柄が良いため困っているところを見ると、つい手を差し伸べたくなってしまうのです。きっと奥さんのご両親にも気に入られたのでしょう。羨ましい反面、これで結婚に踏み切るしかなくなったNに多少の同情もします。

 

結婚式前夜の会合

最後の独身記念日、というありきたりな名目で私とNが仲良くしているグループが集まりました。チェーン店の居酒屋で酌み交わすお酒は、別に感慨深さを生み出すわけでもなく普段と変わらない味です。しかし主役のNには違ったようで、思い出話になると目を潤ませたり天井を仰いだりと感極まっている様子でした。酔いも程よく回った頃合いで、人一倍酒に呑まれていたNがこんなことを言いだしました。
お前たちは結婚貴族じゃなくて、結婚庶民だよ。結婚しない、じゃなくて出来ないことを認めたくないから、そんな風にカッコつけてるんだ
これには一瞬で場も凍りつきましたが、それは我々にとって冷めた発言では無く、目を覚まさせる強烈な一言だったからです。きっとあの場にいた独身男の誰もが胸を突かれた思いだったでしょう。
確かに私は日頃から結婚なんてめんどくさいだけ、と経験したこともないことを、さも先人の教えのように平気で語っていました。Nも以前はその「独身庶民」側の人間だったのですが、結婚という重みが現実としてのしかかった今は考えが180度変わったようです。

 

そこから始まったNの結婚にまつわる講釈に独身男たちは黙って頷くばかりでした。
それでも私は自分の結婚像というものが見えてこなかったのです。

 

 

遠くなったNの存在

実はNの結婚の話は二年も前の話になります。結婚してから私はNとあまり連絡を取らなくなっていました。どちらかが転勤して距離が離れたからではありません。去年の暮れに奥さんが妊娠してからNの付き合いが急激に悪くなったからです。またNも自営を畳み普通のサラリーマンとして働き出し、いよいよ家族のために頑張る父親へと生まれ変わったのです。
家庭に入る夫としては、この上なく優良物件なのでしょうが私としては大切な仲間と取られたとあって面白くありません。半ば意地になって、こちらから連絡してやるものかと子供じみた態度を取っていたら疎遠になってしまったのです。
こんな経験は一度や二度ではありません。結婚して子供を設けた友人は、すべからく私の周りから離れて行きました。いや私の方から離れていったという方が正しいでしょうか。

 

会えば奥さんに対する惚気はたまた愚痴、子供がいかに可愛いか熱弁するなど独身庶民には到底興味のない話題を振りまかれるのが、嫌で仕方なかったのです。
そんな中、Nが地元を離れ単身赴任するという話が風の噂で聞こえてきました。こうして益々私たちは疎遠になり、いつしかNの事を考えることさえなくなっていきました。

 

Nと私を再会させたSNS

私は会社の可愛い後輩OLからのお誘いでフェイスブックを始めました。初めは後輩OLとの繋がりから会社内でフェイスブック仲間が増え、交流のあるメンバーを中心にやり取りをしていました。今日は何を食べた〜、こんな面白い本を読んだ〜など他愛のない内容に最初は「何の意味があるんだ?」と半ば馬鹿にしたような気持ちで触っていたのですが、気づけば知人の新着記事がアップされる度にコメントを打ち、その反応を楽しむようになっていました。
ある日いつものようにフェイスブックのページを閲覧していると、友達のリクエストがありました。何とそれはNからのものだったのです。私はつい目を疑いましたが、紛れもなくN本人でした。友達を承認するとNから早速メッセージがあり、そこから約二年越しの交流が再会したのです。

 

メッセージで交わす内容はお互いの近況が主でした。しかしすぐに馬鹿騒ぎしていた頃と変わらぬ下らない話が始まり、とてもノスタスジックな気持ちになると同時に空白だった二年間を後悔しました。
私は正直に自分がNから離れた理由を告白し、謝罪しました。するとNから直接電話がかかってきて、別に謝る必要なんてないと諭され私は図らずも涙ぐんでしまったのです。

 

自分は独身であいつは既婚者。つまらない壁を作って大切な友人を蔑ろにしてしまった自分を、心のどこかで認めたくなかったんだなと自覚しました。Nは私の懺悔を笑いながら聞き、胸の中のわだかまりが消えたのがわかりました。
またN自身も散々既婚者を馬鹿にしていた自分が結婚したのを、裏切り行為のように感じていて後ろめたかったと明かしてくれました。まさかフェイスブックを発端に、再会が果たせるとは思いもよりませんでした。

 

Nが語る結婚

 

それから私はNとフェイスブックで互いの近況を共有しあったり、下らない冗談を言い合ったり、変わらない毎日を送っていました。ある日Nは帰ったら仲間うちを集めて飲み明かしたいと言い出し、あの独身記念日を祝った居酒屋で集まる約束をしました。
当日、少し老けた面々が顔を合わせ昔のような馬鹿騒ぎが始まりました。とは言っても体力が落ち無茶はできない年齢。程よく酔いが回る頃には全員がゆるりとした口調で昔話に花を咲かせるに留まりました。
そこで語り出したのはやはりNでした。愛する家族の話に口が止まりません。昔なら「おいおい、またその話かよ」と辟易していたところですが、Nが自分のフェイスブックで子供や奥さんの写真をあげ何かと話題に持ち上げていたのを見ていたので、嫌悪感はなくむしろ親近感が湧きました。Nの子供が幼稚園への入園を前にして準備が慌ただしそうで、その苦労話も酒の肴になるのだから不思議です。
途中、誰かがこんなことをNに聞きました。
「子供と一緒にいると、やっぱり結婚してよかったと思う?」
Nは大きく頷き、こう話しました。
結婚した時から、もうすでに結婚して良かったと思ってたよ
Nは、いい加減な自分を治したい気持ちはあっても実行できずにいたのが、結婚に後押しされて変わることができ感謝しているのだそうです。友人に借金してまで送りたい悠々自適の独身生活なんてなかった、とNは当時の自分を振り返ります。
私はNが結婚した時に抱いた自分の負の感情を恥じました。彼の大きな決断を否定するような姿勢は、本当の友人とは言えません。かと言って、あの頃の自分に何を言っても聞き入れなかったでしょう。もっと早くにフェイスブックを始めていたら、Nとのすれ違っていた時間も短くなっていたでしょうか。

 

今となっては考えるだけ無駄ではありますが、そう思わずにはいられません。

 

脱・独身庶民

Nの結婚に始まった疎遠期間。本当に勿体無いことをした時期ではありましたが、私自身の結婚に対するイメージも大きく変わる出来事ではありました。結婚すれば自分や仲間との時間がなくなる、という事実は変わりありませんがフェイスブックを使って色々なことを発信して近況を共有するだけで、普段から繋がりを持つことは難しいものではなくなりました。

 

現にNはフェイスブックで子供の成長を報告したりする他、身の回りに起こった面白い出来事や趣味の話を発信し我々を楽しませてくれています。そのやり取りだけでも、本当の友人なら繋がっていられるはずなのです。
そうなると私が結婚を否定してきた一番の理由「自分や仲間との時間がなくなる」という持論が通用しなくなりました。独身の気楽さも気に入ってはいますが、人生の伴侶を見つけることで得るものの方が大きいはずです。現にNは嫌っていた自分を脱却し、一人の人間として成長しました。
すぐに結婚までたどり着くのは難しいですが、その一歩を踏み出す気持ちが生まれたことで私の中の結婚願望が沸々と盛り上がったきました。40目前の男には厳しい現実が待ち受けているかもしれませんが、行動をする意思は消えそうにありません。きっかけを作ってくれたのは間違い無くNの結婚です。もし私にいつか心に決めた人ができたら、一番にNへ報告すると決めています。